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『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』ウーナ・チャップリンが体現する伝説の血統と革命的な演技
*この記事は『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』のネタバレを含みます。
ジェームズ・キャメロン監督の『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』(2025)でヴァラン役を演じたウーナ・チャップリン。ウーナは、伝説とも称される俳優チャーリー・チャップリンの孫という重圧を背負いながら自らの力でキャリアを築いてきた。
しかし、そのキャリアには「名前も変えたいと真剣に考えた」とも考えるほど順風満帆ではなかったという。
果たして、どのように世界の重圧と向き合いあながら俳優人生を歩んできたのか?
そこには、ウーナ・チャップリンにしかわからない俳優との向き合い方があった。本稿では、『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』(2025)でのウーナの活躍と共に、彼女のキャリアを深堀りしたい。
チャーリー・チャップリンの孫として生きる重圧
ウーナ・チャップリンは1986年6月4日、マドリードで生まれた。母はアメリカ系イギリス人女優ジェラルディン・チャップリン、父はチリ人撮影監督パトリシオ・カスティージャである。偉大なる祖父・チャーリー・チャップリンは、彼女の人生において常に光と影を投げかけてきた。
ロンドンの王立演劇学校を卒業する際、ウーナは「名前を変えることすら考えた」とも明かしている。
当時は、チャーリーの重圧を背負うことに恐れを抱いていたという。上記の言葉からも『祖父の肩書きとどう向き合っていくべきか?』という問いに悩み続けてきたことが感じ取れる。
そのような状況の中、ウーナがたどり着いた答えは以下の通りだった。
「罪悪感を抱き続けることは時間の無駄だと気づいた。私がすべきことは、その扉をどう通り抜けるかに責任を持つこと。ベストを尽くし、懸命に働き、人々に親切であること」
祖父が1977年に亡くなったのは彼女の出生前だが、血統に宿る才能と魂は確実に継承されている。
ウーナ自身はその独特の動きを完全には継承していないと語るが、パフォーマンスキャプチャーという最新技術を駆使する『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』(2025)では、彼女の身体性こそが武器となった。
祖父チャーリーが最先端で世界を笑いと涙で結びつけたように、ジェームズ・キャメロンも最先端技術で人間の心を描き出す。
ウーナは両者の共通点をこう表現する。
「どちらもハリウッドの最先端で、人間の心について物語を語っている」
俳優としての歩みと心情
ウーナ・チャップリンの俳優キャリアは、華々しい血統とは対照的に、地道な努力によって築かれてきた。
2008年の『007 慰めの報酬』で映画デビューを果たしたウーナ。彼女の名を一躍世界に知らしめたのは、HBOの『ゲーム・オブ・スローンズ』(2012-2013)でのタリサ・メイギア役だろう。
ロブ・スタークの悲運の婚約者を演じたウーナは、その後もBBC『The Crimson Field』(2014)のキティ・トレヴェリアン役、『ブラック・ミラー』(2014)の「ホワイト・クリスマス」特別編など、多岐にわたる作品に出演を果たした。
だが、当時の俳優業は彼女にとって常に葛藤を伴うものだったという。
その証拠として、2017年に『アバター』のオーディションを受ける前、実は演技を辞める覚悟をしていたことも明かされている。
「過去2年半は母親であることに専念し、仕事をしたくなかった」
それでも、ジェームズ・キャメロンからのオーディションの知らせは、そんな彼女を引き止める大きな誘いとなった。
「彼は私の憧れの一人。『エイリアン』『ターミネーター』『タイタニック』…ジム(ジェームズ・キャメロン)にはかなり感激した」とウーナは語る。
また、キャメロンはウーナの演技を「シリーズに独特のダイナミズムと魅力を引き出してくれた」と評価している。ウーナは、自身のキャリアの中でも最大規模と言えるこのフランチャイズ作品を通じて、演技への愛を取り戻したと言えるだろう。
「この役は、私に演技への愛をもう一度思い出させてくれました。自分の仕事、そして物語を語るというかけがえのない才能に対する、言葉では言い尽くせない感謝の気持ちを育ててくれたのです。それは、いつの間にか忘れかけていたものでした」と言葉を残している。
ウーナ・チャップリン演じるヴァランという挑戦的な役柄
『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』でウーナが演じているのは、アッシュ・ピープル(灰の民族)に属するマンクワン族のリーダー、ヴァランだ。
『アバター』シリーズの舞台である惑星パンドラでは、人々は自然と深く結びつき、「エイワ」と呼ばれる女神的存在と精神的なつながりを保ちながら生きている。しかしマンクワン族は、火山の大惨事によって故郷を失い、その出来事を「エイワに見捨てられた結果」だと受け止めた。
生き延びるため、彼らは自然や女神との精神的な結びつきを断ち切り、本能と厳しさ、そして従来とは異なる新たな力に頼る道を選ぶ。その選択の中心に立つのが、ウーナ演じるヴァランである。
ヴァランは、故郷を失った深い悲しみと絶望の中から形づくられたキャラクターだ。
やがて彼女は、本来は癒やしや導きを担う存在であるシャーマン(部族の精神的指導者)の力を、破壊的な方向へと転じた「暗黒の道」を探求するようになる。ジェームズ・キャメロン監督も彼女を、「暗黒の道を歩む存在」と位置づけている。
その結果、ヴァランは他者の精神に干渉したり、痛みを与えたりする力を身につけ、さらには火を操る能力まで獲得する。
指が炎に包まれても平然としている姿は、この世界の住人であるナヴィ族の中でも前例のないものであり、彼女が従来の価値観から大きく逸脱した存在であることを証明した。
祖父とジェームズ・キャメロン監督に見る共通点
ウーナは海外メディアのインタビューで、『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』を通して、ジェームズ・キャメロン監督とチャーリー・チャップリンの間に強いつながりを感じたと語っている。
「特にこの作品では、キャメロンにチャーリー・チャップリンへと回帰するような、多くの共通点を感じました」と彼女は述べた。
さらに英国紙『The Sunday Times』のインタビューでは、「ジェームズ・キャメロンは、いま最もチャップリンに近い存在かもしれない。タイプはまったく違うけれど、彼らは自分が何を語っているのかを理解しているからこそ、人々は自然と耳を傾けるの」と語っている。
その理由としてウーナが挙げるのが、キャメロン監督の撮影現場でのあり方だ。
彼女はそのアプローチを「驚くほど遊び心にあふれている」と表現する。
「戦闘シーンのリハーサルでは、彼が真っ先に飛び込んできて、床を転がりながら動きを見せるの」と、笑顔を交えて振り返った。
こうした身体性と情熱は、サイレント映画時代に全身を使った表現で観客を魅了したチャーリー・チャップリンの姿を彷彿とさせる。
特に、パフォーマンス・キャプチャーにおけるキャメロン監督の俳優への関与の深さには、ウーナも強い印象を受けたという。
「彼は、各シーンのあらゆる瞬間に、身体的にも、精神的にも、そして魂のレベルで全身全霊で向き合っている」
その言葉からは、キャメロンが現場に注ぐ情熱への深い敬意がにじみ出ている。
血統を超えて咲くウーナ・チャップリンの才能
チャーリー・チャップリンという伝説的な名前は、ウーナの人生に常に影響を与えてきた。
家族との対話も通じて、彼女は自身の血統を重荷ではなく、責任であり資産として捉えるようになった。有名な姓は確かに世間の認識を形作るが、それが才能や功績を定義するわけじゃない。
『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』でのウーナの演技は、初期評価で高く評価されている。多くの批評家が、「彼女のパフォーマンスは作品に独特のダイナミズムとシーンの魅力を生んでいる」と評価をした。
この役は、チャップリン家の血統への敬意を大切にしつつ、ウーナならではの芸術的アイデンティティを築く機会になったに違いない。
ウーナ・チャップリンに必要だったことは、『血統の重圧』を乗り越え、純粋な演技への愛に立ち返ることだったのだろう。本作を通して、彼女は自分自身の力で、その愛を取り戻したようにも見える。
チャーリー・チャップリンの孫娘という肩書きは確かに一生付きまとう。
だが『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』でのヴァラン役は、彼女が祖父から受け継いだ才能を遺憾なく発揮し、それを超えて独自の道を切り拓く第一歩になったはずだ。
ジェームズ・キャメロン監督が見出した魅惑的な存在感は、新たなチャップリン伝説の始まりを予感させる。



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