ハリウッドで半世紀近く活躍を続けるメリル・ストリープ。アカデミー賞に21回ノミネートされ、3回受賞という経歴を持つ、まさにハリウッドを牽引する俳優だ。しかし映画に詳しい人なら誰もが知る名女優だが、名前は聞いたことがあっても実際に作品を観たことがない人もいるのではないだろうか。この記事では、メリル・ストリープがどんな女優なのか、そして彼女の代表作を厳選して紹介する。
メリル・ストリープとは…ハリウッド史上最高峰の女優
メリル・ストリープは1949年6月22日生まれのアメリカ合衆国の女優。更新不可能と言われたキャサリン・ヘプバーンが持つアカデミー賞ノミネート回数の記録を23年ぶりに塗り替えるなど、数々の賞を受賞している。76歳(2025年11月現在)となった彼女だが、今なお第一線で活躍し続けている。
ニュージャージー州サミット出身で、父親は製薬会社の役員、母親はコマーシャル・アーティストという環境で育った。ヴァッサー大学在学中に奨学金を得てイェール大学演劇大学院で学び、卒業時にはキャロル・ダイ演技賞を受賞した。
彼女の演技の最大の特徴は、役柄に応じた訛りや言語の使い分けるなどの、徹底した役へのアプローチにある。役柄ごとに、自分の人格までも変わったかのような姿を見せ、まさに役に憑依しているような姿を見せてくれる。これが、メリルにしかできない領域の演技なのかもしれない。これこそが、アカデミー賞21回ノミネート俳優の実力だ。
メリル・ストリープの映画|絶対に観るべき代表作10選
1. 『クレイマー、クレイマー』(1979年)
メリル・ストリープは1979年公開の『クレイマー、クレイマー』でアカデミー助演女優賞を受賞し、若手演技派女優のトップに躍り出た。ダスティン・ホフマンと共演したこの作品は、離婚と親権をめぐる夫婦の物語を描いた社会派ドラマである。
家庭に入って家事・子育てを一人で担ってきた妻が、仕事ばかりの夫と幼い息子を置いて家を出ていくところから物語は始まる。再び仕事を見つけて人生をやり直そうとする妻の姿を、メリルは繊細な心の揺れ動きとともに丁寧に演じている。特に親権を巡る裁判シーンでは、観る人を惹きつける圧倒的な演技力を見せつけた。
この映画は家族のあり方について深く考えさせられる名作であり、メリル・ストリープのキャリアを語る上で欠かせない一本となっている。
2. 『ソフィーの選択』(1982年)
1983年にはメリル・ストリープは『ソフィーの選択』でアカデミー主演女優賞を受賞した。この作品で彼女は、役作りのためにロシア語訛りのポーランド語、ドイツ語及びポーランド語訛りのある英語を学び、その言語を見事に使いこなしている。
本作は、ホロコーストの生存者である主人公ソフィーが抱える心の傷と秘密を描いた重厚なドラマであり、メリルの演技力の高さを世界に知らしめた傑作だ。言語を駆使した役作りは、彼女の代名詞ともなっている演技スタイルを確立させた作品でもある。
3. 『愛と哀しみの果て』(1985年)
メリル・ストリープが数々の名作に出演した中でも、『愛と哀しみの果て』(1985年)は特に優れた代表作として知られている。この物語でメリルは、デンマークの裕福な家に育ったカレンを熱演。スウェーデンの男爵と結婚してアフリカ・ケニアに移住する女性の人生を描いている。
本作は、実際にアフリカ・サバンナに生きた女性作家アイザック・ディネーセンの生涯を、シドニー・ポラック監督がメリル・ストリープとロバート・レッドフォードという二大スターの共演で映画化された。1986年に開催された第58回アカデミー賞で、作品賞を含む計7つの部門において受賞という快挙を成し遂げた作品である。
4. 『プラダを着た悪魔』(2006年)
2006年に全米で拡大公開された『プラダを着た悪魔』。編集長ミランダ役はメリル・ストリープ、主人公アンドレア役はアン・ハサウェイが務め、興行収入は1億2000万ドルを超える大ヒットとなった。
さらに本作でも、メリルの演技は多くの批評家から絶賛を受け、自身14回目となるアカデミー賞候補となった。彼女が演じたのは、一流ファッション誌『ランウェイ』の編集長であり、業界に絶大な影響力を持つミランダ・プリーストリー。声を荒げることなく、メリルにしか出せないオーラで圧倒的な存在感を放っている。
ストーリーでは、ジャーナリスト志望のアンディが、悪魔のように厳しい上司の下で前向きに奮闘する姿を描かれている。その姿が世界中で大きな共感を呼び、働く女性から大きな支持を集めた。さらに、2025年には続編『プラダを着た悪魔2』の制作が進行中と発表され、メリル・ストリープやアン・ハサウェイの再登場も報じられている。
映画『プラダを着た悪魔2』の情報は以下の記事に書いてある。
5. 『永遠に美しく…』(1992年)
ロバート・ゼメキスが監督を務めた名作と知られている映画『永遠に美しく…』(1992年)。若く美しいまま永遠に生きられるという秘薬を、メリル・ストリープとゴールディ・ホーンが手にしたことで物語が動き出す本作は、最先端の特撮技術を駆使した究極のブラック・コメディの決定版となった。
落ち目のブロードウェイスターを演じるメリルは、学生時代からのライバルであるヘレンの婚約者を奪ってしまう。やがて、永遠の若さと美しさを求めて不老不死の薬を飲んだ二人が、奇想天外な騒動を巻き起こしていく。
首が180度回転したり、お腹に大きな穴が開いたりといった特殊効果が話題を呼び、アカデミー視覚効果賞を受賞。圧倒的な実力の持ち主の俳優イメージが強いメリルだが、実はコメディエンヌとしての才能にも恵まれていることを証明した作品である。
6. 『8月の家族たち』(2013年)
メリル・ストリープとジュリア・ロバーツが母娘役で初共演し、ピュリッツァー賞とトニー賞をダブル受賞した映画『8月の家族たち』。オクラホマの片田舎を舞台に、父親が突然失踪したことをきっかけに娘たちが久しぶりに集まる物語だ。
病気のため毎日薬漬けの日々を送る毒舌家の母ヴァイオレットをメリルが演じ、長女バーバラをロバーツが演じている。自分勝手な母親と、それぞれの人生を歩む娘たち。彼女たちを取り巻く男たちの本音も次第に明らかになり、やがて家族が抱えていた秘密が浮かび上がっていく。
20分に及ぶ食卓のシーンでは、極度の緊張と笑いが交互に繰り出される壮絶な演技合戦が展開される。本作でメリルは受賞3回を含む18回目のアカデミー賞ノミネートを果たし、自身が持つ俳優としてのノミネート最多記録を更新した。家族のあり方について深く考えさせられる傑作だ。
7. 『マンマ・ミーア!』(2008年)
世界的に有名なスウェーデン出身のポップ音楽グループABBAの曲をベースにしたミュージカル映画『マンマ・ミーア!』。本作でメリルは、シングル・マザーのドナ・シェリダン役を演じている。
メリルは子供の頃オペラ歌唱法を学んでおり、女優となってからも多くの作品で歌声を披露してきた。この映画では、ギリシャの美しい島を舞台に、娘の結婚式を控えた母親が過去の恋人たち3人と再会する物語が描かれている。
本作は、製作5,200万ドルに対して興行収入6億680万ドルを記録。同年12月には『タイタニック』をしのぎ、イギリス史上最高のヒット作品となった。ABBAの名曲とともに繰り広げられる陽気で楽しいミュージカル映画として、多くの観客を魅了した。また、2018年には続編『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』も公開されている。
8. 『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』(2011年)
主演作『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』では、自身17度目のノミネートにして、3度目のアカデミー賞受賞を果たしたメリル・ストリープ。本作は、イギリス初の女性首相として、保守的かつ強硬な政治姿勢から“鉄の女”と呼ばれたマーガレット・サッチャーの生涯を描いた伝記映画である。
物語では、サッチャーが重大な局面で下した決断、隠された苦悩、そして彼女を陰で支え続けた夫との関係などが丁寧に掘り下げられていく。メリルは、徹底したリサーチをもとに役へと深く入り込み、サッチャーの人生を全身で体現。圧倒的な演技力で再びオスカーを手にした。
政治家としての強さと、一人の女性としての脆さ。その二面性を見事に演じ分けた本作は、メリルのキャリアの中でも特に重要な一本となっている。
9. 『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(2017年)
スティーヴン・スピルバーグ監督が、ベトナム戦争に関する機密文書の公開を巡る実話を映画化した社会派サスペンス作品。
同作で、メリルはワシントン・ポスト紙の女性発行人キャサリン・グラハムを演じた。報道の自由と政府の圧力の狭間で苦悩しながらも、真実を報道する決断を下す女性の姿を力強く演じている。トム・ハンクスが編集主幹役で共演し、ジャーナリズムの重要性を描いた作品として高い評価を受けた作品だ。
10. 『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2020年)
グレタ・ガーウィグ監督が名作『若草物語』を新たな視点で再映画化した本作。メリル・ストリープはマーチ伯母役として出演し、4姉妹を見守る存在として物語に深みを与えている。
情熱家で自分を曲げず、周囲と衝突しがちな次女ジョーをはじめとする4姉妹の成長物語は、現代の観客にも響く普遍的なテーマを持つ。豪華キャスト陣による熱演も大きな見どころで、家族の絆や女性の生き方について改めて考えさせられる一本となっている。
メリル・ストリープをもっと知るために
メリル・ストリープが半世紀にわたってハリウッドのトップに君臨し続けられる理由は、徹底した役作りへのこだわりにある。興味深いことに、彼女は台本をあまり読み込まず数回程度しか目を通さない。しかし事前のリサーチは徹底的に行い、この独特なバランスが自然で説得力のある演技を生み出しているのではないか。
彼女が出演をする映画は、単なるエンターテインメントを超えて、人生について深く考えさせられる作品が多い。そんな76歳という年齢を感じさせない活躍を続けるメリルは、2026年公開予定の『プラダを着た悪魔2』で再び鬼編集長ミランダ・プリーストリーを演じる予定だ。果たしてメリル・ストリープはどこまでハリウッドの中心で活躍を続けるのだろうか?



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