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Netflix『アドレセンス』ワンカット撮影の全貌 ー 1時間ノーカット映像を実現した驚異の技術と覚悟

Netflix『アドレセンス』ワンカット撮影の全貌 ー 1時間ノーカット映像を実現した驚異の技術と覚悟

世界中の映像ファンに衝撃を与えた、Netflix配信の英国ドラマ『アドレセンス』(2025)。全4話、各話およそ60分という長尺を、一切のカット割りなしで撮り切った本作は、技術面でも表現面でも、映像制作の常識を大きく塗り替えた。

実際に撮影監督のマシュー・ルイスは、「カットをつなぎ合わせるようなことは、まったくしていません」と断言している。本稿では、海外を含めた様々なメディアの情報をもとに、この革新的なワンカット撮影がどのようにして実現したのか、その舞台裏に迫っていく。

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Netflix『アドレセンス』- 完全なワンカット撮影の真実

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『アドレセンス』の撮影監督を務めたマシュー・ルイスは、Variety誌のインタビューで「視覚効果を使った“隠し編集”は一切行っていない」とはっきり言葉を残している。

世間では、技術的に不可能ではないかと感じる場面も多く、視覚効果を疑う声も上がったが、実際に使われたのは窓を通り抜ける場面での最小限の処理のみ。

それ以外は、すべて本物のワンカット撮影だったという。

この徹底した姿勢こそが、舞台劇のような緊張感と、強い没入感を作品にもたらしているのは明らかだ。

そして、その挑戦を支えたのが『DJI Ronin 4D-6K』というカメラの存在だとも言われている。

ルイスは「従来のジンバルは、オペレーターが長時間装着し続ける必要があり、どうしても体力的な限界があった」と振り返る。

そこで採用されたのがRonin 4Dだった。同カメラは小型で軽量でありながら、全力で走っても安定した映像を保てるのに加え、ドローンへの装着や窓越しのカメラ受け渡しといった複雑な動きにも柔軟に対応できたという。

こうした機材選びと工夫の積み重ねが、前例のないワンカット撮影を現実のものにしたのである。

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1エピソード最低10テイク–ミスしても続ける撮影ルール

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ワンカット撮影という手法において、特に大きなプレッシャーを背負うのは、カメラマンと同様に俳優たちだろう。どうやら本作の各エピソードは、最低でも10回撮影する前提で進められいたそうだ。

スケジュールとしては『午前に1回、午後に1回』のペースで、5日間かけて撮る計画だったという。

それでも、やはり現場では思いどおりにいかないことも多く、エピソードによっては10回を超えるテイクが必要になったとされている。

本作で主演を務めたスティーヴン・グレアムも、「毎エピソード、1週間かけてフィル(監督)と役者たちでリハーサルを重ね、すべての場面をひとつひとつ丁寧に分析していきました」と振り返っている。

また、撮影中は「俳優がセリフを間違えた場合でも、小さなミスならそのまま演技を続け、大きなミスが出たときはリセットして最初からやり直す」-そんなルールが徹底されていた。

さらに、ルイスは「ブーム・オペレーターは常に私や同僚のリーの近くに位置し、どの場面でどう動くかも把握しなければいけなかった」と語り、壁や障害物の陰に隠れ続ける必要もあったと明かしている。

それだけ段取りを緻密に練り込んでいたからこそ、現場では一つひとつを正確に積み上げていく必要があったことがわかる。

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空中浮遊するカメラ-エピソード2のドローンショットの秘密

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『アドレセンス』の中でも、特に強く印象に残るのが、エピソード2の終盤に登場するドローンショットだ。

学校を舞台に、人物の背中を追っていたカメラがゆっくりと上昇し、そのまま空中を移動して事件現場へ向かう。

ワンカットという条件の中で、この切り替えはとりわけ難易度が高い。視覚的なインパクトがある一方で、ほんのわずかな段取りの乱れも許されない場面でもある。

情報によると、この大胆なショットは空撮チーム『The Helicopter Girls』の協力によって実現した。

カメラを地上からドローンへ、違和感なく移行させることで、途切れのない映像が見事に生まれている。

当初は、そのまま空撮を続ける構成が想定されていたがプランは途中で変更。最終的には、駐車場へ戻り、ジェイミーの父親が花を供える場面で着地する流れに落ち着いたという。

ワンカット撮影は、常に一度決めた動線を崩しにくいのがネックとなるだろう。一見すると派手な技術の見せ場に見えるこのシーンだが、実際には、細かな運用や調整を地道に積み重ねた成果にほかならない。

『アドレセンス』のワンカットが成立している理由は、まさにその緻密さにあるのではなだろうか。

肉体的限界との戦い - エピソード3の過酷な現実

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さらにエピソード3では、ルイスがほぼ単独でカメラを操作し続けるという、極めて過酷な撮影も行われていた。

カメラを受け渡せるポイントがなく、長時間にわたって安定した映像を保つ必要があったため、Ronin 4D-6Kにはアームを装着することになったという。

しかしこの機材は、分解して他のオペレーターに引き継ぐことが難しく、結果的にルイスが背負い続けるしかなかった。

正直、身体的には最悪でした。背骨が押し潰されていくような感覚で、時々意識が遠のくこともありました」と、ルイスは当時を振り返る。

それでも彼が撮影をやり遂げられたのは、現場の全員が「ワンカットで完成させる」という共通のゴールを信じていたからだ。

ルイスは当時の心境について、以下のように語っている。

頭の中には、もしものためのバックアッププランもありました。でも、それを口に出した瞬間に、この挑戦は終わってしまうと思ったんです

一切の妥協を許さないその姿勢と、チーム全体の覚悟があったからこそ、『アドレセンス』のワンカット撮影は現実のものとなった。

ワンカットじゃないと『アドレセンス』は生まれてない?

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結果的に大ヒットとなった本作だが、撮影を担ったルイスは「ワンカットは、どんな物語にも向いているわけではない」と慎重な言葉を添えている。

あくまで『アドレセンス』においては、この手法こそが物語に必要な緊張感を生み出す最適解だったとした。

派手なアクションがなくなると、途端に不安定さが際立つ。ずっと張り詰めた状態が続いていて、観ている側は息を抜く間がありません

これこそ、ワンカット作品の醍醐味なのかもしれない。

通常の映像作品であれば、ワイドショットに切り替えることで観客に『間』を与えることができる。しかしワンカットには、その逃げ道がない。

13歳の少年が同級生殺害の容疑で逮捕されるという、重く息苦しいテーマを描く本作にとって、この『逃れられない緊張感』は絶対に必要な要素だった。

脚本家のジャック・ソーンがワンカットを『まばたきしない目』と表現したように、ワンカット撮影は観客を『物語の外側』に置くことはなく、登場人物の世界へと引きずり込む。

技術への挑戦と、社会的テーマへの真摯な向き合い方。その二つが噛み合ったとき、ワンカットは単なる技巧ではなく、物語そのものを支える力となった。『アドレセンス』は、そのことを強く証明している。

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