エンタメで人々に可能性与えるwebマガジン

TAG LIST
映画

ニコラス・ケイジの人生と借金地獄の全貌ーー豪遊の果てに見つけたハリウッドスターの仕事観

ニコラス・ケイジ

日本でもよく名の知れた人物として知られるニコラス・ケイジ。

『リービング・ラスベガス』でアカデミー賞主演男優賞を受賞し、『ザ・ロック』『フェイス/オフ』『ナショナル・トレジャー』シリーズなど、1990年代から2000年代前半にかけて、彼はまさにハリウッドの顔の一人だった。 その絶頂期には、1年で4000万ドル(約62億)を稼いだと報じられ、累計では1億5000万ドル(約233億円)近い財産を築いたと言われている。

しかし、ここからがケイジの人生のらしさが出るところで、彼はその莫大な収入を、普通の資産形成とは真逆の方向に全力で使い始めてしまう。

もちろん、豪邸や車を買う程度なら、ハリウッドスターならよくある話だが、ケイジの場合はそのスケールと趣味が桁違いで、後に「1億5000万ドルを燃やした男」として、世界中のメディアが象徴的なケースとして取り上げるほどになっていく。

この記事では、その豪遊と借金の全貌を追いながら、彼がそこからどうやって立ち直っていったのかを掘り下げてみたい。

豪邸15軒と2つの城──不動産に取り憑かれたスター

Embed from Getty Images

ケイジの浪費の中でも、最もインパクトが大きかったのが不動産への異常なまでの執着である。

CNBCBusiness Insiderなどの海外メディアによると、彼は全盛期に世界中に15軒の家を所有し、その中にはバハマの無人島や、ヨーロッパの城まで含まれていたとされている。

具体的には、イングランドやドイツにある城を合わせて約1200万ドル(約19億円)で購入し、さらにロードアイランド州ニューポートの豪邸には1570万ドル(約24億円)を投じたと伝えられている。

本人はニューヨーク・タイムズのインタビューなどで、こうした不動産購入を「聖杯探求」のようなものだったと振り返っている。

神話や歴史に惹かれ、その舞台となった土地や建物を自分の足で辿りたくなり、興味が向くままに世界中の物件を買い集めていったという説明は、俳優というより放浪する哲学者に近い感覚すら漂う。

ただし、そのロマンあふれる買い物は、リーマンショック後の不動産市場の崩壊によって一気に重荷へと変わり、後述する巨額の借金の大きな原因になっていく。

恐竜の頭骨にピグミー族のミイラ──常識外れの散財リスト

Embed from Getty Images

不動産だけでも十分に派手だが、ケイジの豪遊は、もっとわかりやすく「クレイジー」と言いたくなるアイテムにも広がっていた。

海外メディアがまとめたリストには、約7000万年前とされる恐竜タルボサウルスの頭骨を27万6000ドル(約4300万円)で競り落とし、しかもその相手がレオナルド・ディカプリオだったという、ほとんど都市伝説のようなエピソードまで登場する。

後にその頭骨が盗品であることが判明し、彼はモンゴル政府に返還しているが、ここでも現実離れした物語性を感じてしまう。

さらに報道によれば、ケイジはピグミー族の干し首、幽霊が出ると噂されたニューオーリンズの豪邸、9フィート(約2.7メートル)の墓、15万ドルの初版本『アクション・コミックス1号』(初登場のスーパーマン)など、一般人なら一生縁のなさそうな品々に大金を注ぎ込んでいる。

2隻のヨット、高級車コレクション、珍しいペットまで含めると、「王族でもここまでやらないのでは」と感じるレベルだ。ここまでくると、もはや単なる浪費家では表現しきれない。

IRSからの600万ドル超の請求──借金地獄の入り口

Embed from Getty Images

しかし、どれだけ夢のような買い物を続けても、税金だけは現実そのものとしてやってくる。

2009年前後、アメリカ国税庁(IRS)はケイジに対し、未払い所得税に関して約620万ドル(約9億7000万円)の税務留置をかけたと報じられている。

ABCニュースが入手した連邦税務当局の記録によると、彼は2002年から2004年分の税金に加え、特に2007年分として625万7005ドル(約9億8000万円)という巨額の滞納額を抱えていた。

この時期、ケイジは財政的な窮地に追い込まれ、金融メディアによれば、かつて所有していた複数の不動産が差し押さえや競売にかけられたとされている。

彼は自らのビジネスマネージャーが適切な助言をしなかったとして、2009年に2000万ドル(約31億円)規模の訴訟を起こし、「自分は破滅への道に追いやられた」と主張した。

一方で、マネージャー側は、ケイジが忠告を無視して浪費を続けたと反論して反訴しており、訴訟の応酬自体が、彼の財務状況の混乱ぶりを象徴するエピソードになっている。

「自分は破産しなかった」──ケイジが語る暗い時代

Embed from Getty Images

当時のケイジの状況は、外から見れば「破産寸前のハリウッドスター」として消費されやすいストーリーだったが、本人はそのど真ん中で相当な精神的プレッシャーと向き合っていたようだ。

『60ミニッツ』や後年のインタビューで、彼は不動産に投資しすぎたことが致命的だったと認めつつ、「不動産市場が崩壊し、自分はタイミングよく逃げることができなかった」と説明している。

その結果、総額で約600万ドル(約9億4000万円)の負債を背負うことになったが、それでも「破産だけは絶対にしない」と心に決めていたと語っている点が印象的だ。

彼はこの時期を「暗い時間だった」と振り返りながらも、「仕事が守護天使だった」と表現しているリストラではなく、ひたすら現場に立ち続けることでしか借金を返せないと悟り、ひとつひとつの出演オファーを「借金返済のためのチャンス」として受け止めていた心境がそこに滲んでいるようだ。

「片っ端から仕事を受けた」時代と量産されたB級映画たち

Embed from Getty Images

ケイジのフィルモグラフィーを眺めると、2000年代後半から2010年代にかけての出演本数の多さに驚かされるが、その背景には前述の経済的な事情があったとされている。

FinanceBuzzによれば、彼は借金返済と母親の医療費を賄うために、オファーされる役を「とにかく断らずに受けた」と伝えられており、その結果、劇場公開作だけでなくビデオスルーや低予算インディーズ作品への出演が一気に増えた。

この時期の作品は、批評家から辛辣な評価を受けたものも多く、「税金のために映画を撮り続ける男」という残酷なラベルを貼られることもあった。

それでも、ケイジ自身は後に「どれだけ状況が苦しくても、仕事そのものは大切にしていた」と語っており、実際に『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』や『Pig/ピッグ』のような作品で、再び高い評価を勝ち取っていく流れを見ると、彼にとって仕事は単なる収入源以上のものだったのだと感じさせられる。

経済的な破綻とキャリアの再評価が同時進行した、非常にいびつだが人間らしい時期だったと言えるだろう。

それでも借金を完済したハリウッドスターの意地

Embed from Getty Images

興味深いのは、これだけの負債とスキャンダルに見舞われながらも、ケイジが最終的に「借金をすべて返し終えた」と語っている点である。

彼はインタビューで、巨額の負債を抱えながらも破産に頼らず、地道に働き続けて返済したことを繰り返し強調しているが、そこにはハリウッドスターとしてだけでなく、ひとりの人間としてのプライドがにじむ。

多くのセレブ破産のケースでは、債務整理や破産申請によって「一度リセット」した上でキャリア再建に向かう流れが一般的だが、ケイジはあくまで自分自身の労働で落とし前をつけようとした。

この姿勢は、別メディアのコラムなどでも「浪費家の警告としてだけでなく、借金から立ち直る一例」として紹介されることが増えており、皮肉なことに、彼の借金人生が人々に勇気を与える物語として再解釈され始めているのも面白いポイントだ。

ハリウッドにはなぜ借金スターが多いのか?

Embed from Getty Images

ここで、ニコラス・ケイジのケースをきっかけに、もう少し視野を広げて考えてみたいのが、「なぜハリウッドでは、これほど借金や破産のニュースが多いのか」という問題である。

実はインディペンデント紙などの情報を見ても、マイケル・ジャクソンが死去時に5億ドル(約780億円)規模の負債を抱えていたと報じられたり、その他の俳優や歌手が数千万ドル単位、つまり数十億円規模で破産しているケースがいくつも紹介されている。

共通して指摘される要因は、突発的な高収入に対して、長期的なキャリアプランや節税戦略が追いついていないことだ。 



一気に大金を得たことで、周囲からの勧誘や投資話も雪崩のように押し寄せ、本人も「今の生活が永遠に続く」と錯覚してしまう。

そこに豪華なライフスタイルへのプレッシャーや、周囲の期待、世間の目が加わり、「スターならこれくらい持っていて当然」「このランクの家に住まないと恥ずかしい」といった暗黙の社会規範が生まれてしまう。

ケイジのような極端な豪遊は『その氷山の一角が誇張されたもの』とも言えるかもしれない。

順風満帆な人生なんてない──ケイジの紆余曲折から見えるもの

Embed from Getty Images

ニコラス・ケイジの人生を振り返ると、「アカデミー賞俳優」「1億5000万ドル(約234億円)の男」という派手な肩書きと、「税金滞納」「借金600万ドル(約9億4000万円)」というネガティブな見出しが、常に背中合わせでついて回る。

しかし、本人の証言や、近年のインタビューを追っていくと、そこで見えてくるのは単なる転落劇ではなく、むしろ「順風満帆な人生なんてそもそも存在しない」という、どこか人間くさいリアリティであると感じる。

自分で選んだ豪遊のツケを、自分の仕事で払っていくという姿勢は、一般的な感覚からすると無謀で愚かに映る部分もあるが、その不器用さも含めて、彼のキャラクターと作品世界の両方を象徴しているように思える。

彼が演じてきた、どこか壊れかけていて、しかしギリギリのところで踏みとどまろうともがく男たちの姿は、現実のケイジ自身と重なり合いながら、今も観客の心に響き続けているのではないだろうか。

ハリウッドスターの豪遊は「夢」か「警告」か

最後に、ハリウッドスターの豪遊そのものについて、自分なりの視点も少しだけ加えておきたい。

ケイジのディノサウルスの頭骨や城の購入は、外から見ると「バカげた浪費」として語られがちだが、一方でそれは、映画やエンタメが売っている「豪奢な夢」を、本人が現実の生活でそのまま体現してしまった結果だと言える。

ただし、その夢は、税金や市場の変動といった冷酷な現実の前ではあっさりと崩れ去る。

ケイジが見せたのは、「お金がいくらあっても、構造的なリスクや計画の甘さがあれば、一瞬で消えてしまう」という、かなり生々しい教訓だ。

ハリウッドスターの豪遊は、私たちにとっては非現実的なショーケースでありながら、同時に「収入が増えた瞬間こそ、足元を見直さないと足をすくわれる」という警告としても読めるのだと、私は感じている。

海外メディアの参考リンク

・CNBC – How Nicolas Cage once blew his entire $150 million fortune
https://www.cnbc.com/2018/01/19/how-nicholas-cage-once-blew-his-entire-150-million-fortune.html

・CNBC – Nicolas Cage blew $150 million on a dinosaur skull and two castles
https://www.cnbc.com/2019/08/09/why-nicholas-cage-blew-150-million-dollars-on-a-dinosaur-skull-and-two-castles.html

・FinanceBuzz – How Nicolas Cage Wildly Spent a $150 Million Fortune
https://financebuzz.com/finance-nicolas-cage-buying-spree

・People – Nicolas Cage Recalls ‘Dark’ Time Being $6 Million in Debt
https://people.com/movies/nicolas-cage-recalls-dark-time-6-million-debt/

・ABC News – Latest Celeb Money Meltdown: Nicolas Cage
https://abcnews.go.com/Business/nicolas-cage-hollywood-stars-facing-money-woes/story?id=8793521

・People – How Nicolas Cage Spent His $150 Million Fortune
https://people.com/movies/how-nicolas-cage-spent-millions/

・AARP – Celebrities That Faced Financial Troubles
https://www.aarp.org/money/personal-finance/celebrities-who-went-broke-slideshow/

・Business Insider – Rich and Famous Celebrities Who Lost All Their Money
https://www.businessinsider.com/rich-famous-celebrities-who-lost-all-their-money-2018-5

・Independent – Celebrities who lost their fortunes
https://www.independent.co.uk/arts-entertainment/films/news/celebrities-bankruptcy-net-worth-hollywood-b2618414.html

コメント

この記事へのコメントはありません。

RELATED

PAGE TOP