2026年3月に日本での公開が控えている映画『ウィキッド 永遠の約束』(2026)。前作にあたる『ウィキッド ふたりの魔女』は、世界が圧倒されるほどの仕上がりで世間を賑わせた。
本記事では、実際に鑑賞した筆者が『ウィキッド ふたりの魔女』を徹底レビューしたい。吹き替え版の評価、興行収入の動向、そして2026年公開予定の続編『ウィキッド 永遠の約束』の最新情報まで、この作品の魅力を紹介する。
『ウィキッド ふたりの魔女』あらすじ
舞台は、多くの人に認知されている『オズの魔法使い』の世界。ただし物語は、少女ドロシーがこの国を訪れるずっと前の時代から始まる。緑色の肌を持って生まれたエルファバは、父親から愛されず、妹の世話係として生きてきた。彼女の特異な外見は周囲から忌み嫌われ、孤独な日々を送っていた。
ある日、エルファバは妹に付き添ってシズ大学へ向かう。そこで出会ったのが、金髪で美しく社交的なグリンダだった。二人は最初こそ反発し合うものの、次第に深い友情で結ばれていく。エルファバの内に秘められた強大な魔力は、やがて偉大な魔法使いの目に留まり、彼女はエメラルドシティへと招かれることになる。
しかし、エメラルドシティで待っていたのは残酷な真実だった。オズの魔法使いは慈悲深い統治者などではなく、言葉を話す動物たちを迫害する独裁者だったのである。エルファバは正義のために立ち上がるが、その選択が彼女を「西の悪い魔女」へと変えていく。一方のグリンダは、民衆に愛される「善い魔女」として権力側に取り込まれていくのだった。
ネタバレ込みの結末
物語のクライマックスでは、エルファバが魔法使いの欺瞞を暴こうとする。彼女が救おうとしたのは、魔法使いによって翼を奪われ、声を失わされていた動物たちだった。しかし彼女の行動は「反逆」と見なされ、オズ全土に指名手配される事態となる。
グリンダはエルファバと共に逃げるよう懇願するが、エルファバは拒否する。「私は間違っていない。たとえ一人になっても、真実のために戦う」という彼女の決意は、二人の友情を引き裂く。グリンダは涙ながらに民衆の前でエルファバを非難し、「善い魔女」としての地位を確立していく。
映画は、エルファバが箒にまたがり、追っ手から逃れるように空へ舞い上がるシーンで幕を閉じる。名曲「Defying Gravity(自由を求めて)」が響き渡る中、彼女は重力の束縛から解放され、自由を手に入れる。しかしその代償として、愛する友との絆、社会における居場所、そして「普通」でいられる可能性のすべてを失ったのだった。この衝撃的な結末は、観客に善悪の境界線について深く考えさせる余韻を残している。
世界を席巻した『ウィキッド ふたりの魔女』の興行収入
『ウィキッド ふたりの魔女』は興行面でも、結果的には驚異的な成功を収めた。2024年11月の全米公開以来、世界興行収入は7億5,800万ドル超を記録。この数字は、ミュージカル映画としては近年稀に見る大ヒットであり、『ラ・ラ・ランド』や『グレイテスト・ショーマン』といった過去のヒット作を上回る勢いだ。
日本でも2025年3月7日の公開初週末から好調な滑り出しを見せ、公開2週目には動員数ランキングで上位をキープ。特に若年層と女性層からの支持が厚く、ロングラン上映が期待される状況となった。
さらに、本作はアカデミー賞で衣装デザイン賞・美術賞を受賞。これは作品のビジュアル面での完成度が業界関係者からも高く評価された証だろう。特に衣装デザイン賞の受賞は、ポール・タゼウェルによる緻密な衣装制作が認められた結果であり、グリンダとエルファバの対照的なスタイリングが作品世界を豊かにしている点が評価された。
そして、美術賞の受賞も納得の結果だろう。ネイサン・クロウリーによるプロダクションデザインは、オズの国という架空世界に説得力を与え、観客を完全に物語の中へ引き込むことに成功している。エメラルドシティの壮麗さ、シズ大学の学問的雰囲気、そして西の地の荒涼とした風景まで、それぞれの場所が固有の個性を持って描かれている点が高く評価された。
『ウィキッド ふたりの魔女』レビュー
本作の最大の魅力は、なんといっても圧倒的な映像美にある。映画『クレイジー・リッチ!』(2018)で手腕を発揮したジョン・M・チュウ監督は、オズの国を息を呑むほど美しい世界として描き出した。エメラルドシティの壮麗な建築物、シズ大学の図書館の幻想的な空間、そしてエルファバが空を飛ぶシーンの迫力は、IMAX上映で観る価値が十分にある。
特筆すべきは、CGに頼りすぎない実物のセット構築だ。チュー監督は可能な限り実際のセットを作り込み、俳優たちが本当にその世界に存在しているかのような臨場感を生み出している。この選択が、デジタル映像特有の冷たさを排し、温かみのある映像世界を実現した要因となっている。
衣装デザインも見事で、アカデミー賞衣装デザイン賞を受賞したのも納得の仕上がりだ。グリンダのピンクを基調とした華やかな衣装と、エルファバの黒を基調としたシンプルながら力強い衣装の対比が、二人のキャラクター性を雄弁に物語っている。
シンシア・エリヴォとアリアナ・グランデ|魂を揺さぶる演技と歌唱
エルファバを演じるシンシア・エリヴォの演技は、本作の核心部分を支えている。彼女は緑色の肌を持つというハンディキャップを背負いながらも、内に秘めた強さと脆さを見事に表現した。特に「Defying Gravity」を歌い上げるシーンでは、抑圧されてきた感情が一気に解放される瞬間の爆発力が圧巻だった。エリヴォの歌声は技術的に完璧なだけでなく、エルファバの魂の叫びそのものとして観客の胸に突き刺さる。
一方、グリンダを演じるアリアナ・グランデは、単なるお姫様キャラクターではない複雑な人物像を創り上げた。表面的には明るく社交的でありながら、内心では承認欲求と葛藤している彼女の姿は、現代を生きる私たちにも通じる普遍性を持つ。グランデは、10歳の頃からこの役に憧れていたというだけあって、グリンダへの深い理解と愛情が演技の随所ににじみ出ている。
「つまらない」という声の真相とは?
実は、SNSやレビューサイトでは「つまらない」という声も一定数存在している。この賛否両論の背景には、いくつかの要因が考えられる。
まずは、ミュージカル映画特有の演出が合わない層もいるということだ。突然歌い出す展開や、感情表現が大げさに見える演技スタイルは、ミュージカルというジャンルの特性ではあるものの、リアリズム志向の映画に慣れた観客には違和感を与えることがある。
次に、政治的・社会的メッセージの強さも賛否を分ける要因だろう。本作はマイノリティ差別、権力の腐敗、プロパガンダによる世論操作といったテーマを正面から扱っている。こうした重いテーマを娯楽作品に求めない観客にとっては、説教臭く感じられる可能性がある。
しかし筆者の見解としては、これらの「欠点」とされる要素こそが、本作の真の価値を形作っていると考える。長い上映時間も登場人物たちの心理を丁寧に描くために必要であり、ミュージカル的表現は感情の高まりを直接的に伝える手段として機能している。そして社会的メッセージは、単なる娯楽を超えた作品の深みを生み出しているのと言えるだろう。
続編『ウィキッド 永遠の約束』最新レビュー情報
二部作の後編『ウィキッド 永遠の約束』は2026年11月21日に全米公開され、日本公開は2026年3月に予定されている。前編の大ヒットを受けて、続編への注目度は極めて高い状況だ。特に前編のクライマックスで分かたれたエルファバとグリンダの運命がどう展開するのか、世界中のファンが唾を呑んで待ち望んでいる。
11月20日現在、同作はRotten Tomatoesで観客スコア97%、批評家スコア71%を獲得。一部の視聴者からは「前作よりも良い」という声さえ上がっている。この高評価の背景には、物語がより深い感情的な領域へと踏み込んでいく点があるようだ。
続編ではグリンダが善い魔女としてオズの魔法使いに操られ、一方のエルファバは逃亡者として西の悪い魔女の名を背負うことになり、お互いの過酷な運命を受け入れていく姿が描かれる。権力と正義、友情と立場の板挟みになる二人の葛藤は、前編以上に切実なものとなるだろう。
『ウィキッド 永遠の約束』レビュー!各メディアの評価を徹底分析
米ハリウッド・リポーター誌のデヴィッド・ルーニー氏は、アリアナ・グランデの演技を本作の”ハイライト”として絶賛している。新曲『The Girl in the Bubble』によってグリンダというキャラクターに深い複雑さが加わり、自身の価値観と社会的立場の間で苦悩する姿が丁寧に描かれるという。ルーニー氏は終盤の感動的なタイトル曲について「プレス試写では後ろにいた若い女性たちが最後まで涙を止められなかった」と記し、続編が観客の感情を強烈に揺さぶる作品であることを伝えている。
またVultureの批評家ビルゲ・エビリ氏は、チュウ監督が大規模なセットよりもキャラクターの内面に焦点を当てた親密な演出に転換したことを指摘し、「前作よりもトーンは落ち着き、焦点がはっきりし、より人間的な物語になっている」と評価した。BBCのキャリン・ジェームズ氏も「前作以上に魅力的で、最後まで心から楽しむことができる」と述べており、既存ファンにとっては期待を上回る満足度が保証されているようだ。
一方で、AP通信は「映画の世界に深く引き込まれることは少なく、観客席から眺めているような距離感がある」としつつも主演俳優たちの力が作品を支えていると指摘した。
USA Todayのブライアン・トゥルーイット氏は「多少の不満はあるかもしれないが、『ウィキッド』を締めくくる作品としては申し分ない出来だ」と総括している。完璧ではないものの、二部作の完結編として十分に観客を満足させる作品になっていることが各メディアの評価から窺える。
『ウィキッド』が描く現代社会への痛烈なメッセージ
本作のもうひとつの重要なテーマは、権力によるプロパガンダの恐ろしさにあると考える。オズの魔法使いは、実際には何の魔力も持たない詐欺師でありながら、巧妙な演出と情報統制によって民衆を支配している。彼は自分の権力を維持するために、エルファバを「西の悪い魔女」として仕立て上げ、民衆の恐怖と憎悪を煽る。
この構造は、現代社会においても驚くほど当てはまる。特定の集団を「公共の敵」として定義し、その脅威を過剰に宣伝することで、権力者は自らの正当性を確立する。エルファバが実際には正義のために戦っているにもかかわらず「悪」とされるという皮肉は、善悪の基準が絶対的なものではなく、権力によって恣意的に決定されうることを示しているのではないか。
友情と立場の板挟み…グリンダの葛藤
さらにグリンダというキャラクターは、作品の中でもっとも複雑な道徳的ジレンマを体現している。彼女はエルファバとの友情を大切に思いながらも、社会的地位や民衆からの愛を手放すことができない。この葛藤は、現代を生きる私たち誰もが直面しうるものだ。
正しいと信じることのために立ち上がるか、それとも安全で快適な立場を守るか。グリンダは後者を選び、その選択が彼女に深い後悔をもたらすことになる。この描写は、傍観者の罪、沈黙の共犯性という重要な問いを投げかけているように感じる。
『ウィキッド ふたりの魔女』は観るべき価値がある傑作
『ウィキッド ふたりの魔女』は、圧倒的な映像美、心揺さぶる音楽、優れた演技、そして深い社会的メッセージを兼ね備えた野心的な作品だ。シンシア・エリヴォとアリアナ・グランデの演技は素晴らしく、二人の化学反応は物語に説得力を与えている。ジョン・M・チュウ監督の演出は、ブロードウェイミュージカルの魅力を損なうことなく、映画ならではのスペクタクルを実現した。
一方で、長い上映時間、物語が途中で終わること、ミュージカル特有の演出スタイルは、すべての観客に受け入れられるわけではない。「つまらない」という声があるのも事実であり、特にミュージカルに馴染みのない層や、軽快なエンターテインメントを求める観客には合わない可能性がある。
しかし筆者の結論としては、これらの「欠点」を差し引いても、本作は観る価値のある傑作だと断言したい。善悪の境界線、友情と立場の葛藤、マイノリティ差別といった普遍的なテーマを、魔女という寓話を通して鮮やかに描き出す本作は、単なる娯楽を超えた作品体験を提供してくれる。
2026年3月に公開予定の『ウィキッド 永遠の約束』は、前編の物語を完結させる重要な作品となるだろう。各メディアの評価を見る限り、続編は前編以上の完成度を誇る可能性が高く、エルファバとグリンダの運命の結末は多くの観客を涙させることになるはずだ。


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