第78回トニー賞授賞式が6月8日(現地時間)にニューヨークで開催され、ミュージカル作品賞は、ロボット同士の儚い恋を描いた『メイビー、ハッピー・エンディング』が受賞した。本作は当初こそチケット販売に苦戦したものの、口コミと批評家の高評価を追い風にヒット作へと成長。主演のダレン・クリスと演出のマイケル・アーデンもそれぞれ個人賞を受賞し、計6部門を制覇した。

メイビー、ハッピー・ウェディング(getty images)
近年目立つ、アジア作品の台頭
演劇作品賞には、公民権運動の象徴的人物を中心に、崩壊寸前の家族関係を辛辣なユーモアで描いた『パーパス』が選ばれた。脚本を手がけたブレンダン・ジェイコブス=ジェンキンスは、2024年の『アプロプリエイト』に続く2年連続受賞という快挙を達成した。助演女優賞を獲得したカラ・ヤングも、黒人俳優として史上初の2年連続受賞者となった。
さらに、注目のミュージカル主演女優賞には、『サンセット大通り』で年老いたハリウッド女優ノーマ・デズモンドを演じたニコール・シャージンガーが選ばれた。オーディション番組出身で「セクシーな歌姫」として知られてきたシャージンガーにとって、今回の舞台はキャリアを再定義する重要な転機。「私にとって、この舞台は“帰る場所”でした。今、自分の居場所がないと感じている人がいたら、どうか希望を持ち続けて」と、涙ながらにスピーチした。
そして、演劇主演女優賞には、オスカー・ワイルドの名作『ドリアン・グレイの肖像』で26役を一人で演じたサラ・スヌークが受賞。ミュージカル助演男優賞には『オペレーション・ミンスミート』で女性スパイを演じたジャック・マローンが選ばれ、ジェンダーの多様性に触れた感動的なスピーチが話題を呼んだ。
また、授賞式ではブロードウェイを一変させたミュージカル『ハミルトン』の初演10周年も祝われ、リン=マニュエル・ミランダをはじめとするオリジナルキャストがメドレーを披露。ホストを務めたシンシア・エリヴォは「『ハミルトン』の開幕時、米国大統領はオバマだった」と述べ、過去10年の政治的変化を観客に想起させた。
演劇界の多様性、社会的発信力、そして創造性の現在地を映し出した2025年のトニー賞。受賞者たちの言葉は、政治的な不安が続く今だからこそ、希望と勇気を観客に届ける力を持っていた。